【創刊号特別寄稿】
ゴルフコースの現状と課題
ニクラウス・デザイン社 日本代表
髙木 洋
ニクラウス・デザイン社(以下、「ニクラウス社」という)として、ゴルフコースに理想的な素晴らしい土地に出会い、妥協することなくコース設計をする機会に恵まれたことに感謝申し上げます。このコースを世界基準のハイエンドコースとして発展させ、維持するために、コースの現状とこれから改善されるべき課題について我々の考えを以下のようにまとめました。これがコースの一層の向上につながる参考となれば幸いです。
ニクラウス社は、2020年から東京クラシッククラブと契約を締結し、芝管理のアドバイスを実施しています。
まず前提として、新設コースには、既存コースと違った特有の問題があります。ベント芝は種まきからはじめ、芽が出てすぐの状態のため、ゴルフ場のターフとしての強度を得るまで数年はかかります。芝生の生命力がまだ低いため、当初は負担のかかる作業ができません。
また、東京クラシッククラブ特有の事情として、張芝を行う高麗芝、野芝に関して、長年、芝生の需要の減退から、開発当時市場に芝生が不足しており、結果として品質の悪い芝生が混ざってしましました。
こういった新設コース特有の問題に対して適切な管理手法をとる必要がありましたが、日本において新設コースのオープンはバブル期以降ほとんど行われておらず、運営会社の株式会社クラシックにおいても新設コースに適した管理手法のノウハウが足りていませんでした。
2020年度より、ニクラウス社の指導により管理手法を液肥中心の管理から粒肥中心の管理に変更しました。
それぞれの管理方法にメリットデメリットはありますが、特に新設コースの芝生には、粒肥中心の管理を行い、芝生の根を十分に育てる必要があるためです。これにより、土中の根の状態がよくなり、より強い芝生に生育していくことと思います。
グリーンコンディションがいい状態というのは、芽数が多く、密度が高まり、芝生が立っている状態です。粒肥中心の管理を行い、土中の根の状態を良くすることで、グリーンコンディションを向上してまいります。
造成時に芝生にとって良い環境を100%実現できることはありません。造成時には想定できなかったことや、運営してみて問題が発覚すること、運営しながら改善をしていくことがあるのは常であり、営業開始から5-10年程度はこれらの手直しが発生します。
東京クラシッククラブにおいても、排水不良箇所の改善、日当たり確保のための伐採、水不足への対応のための水源確保やスプリンクラー修正、バンカー改修工事、等がこれらの手直しに当たります。また、不幸にも大型台風の直撃を受け、伐採/伐根や裸地化部分のフェスキュー化も必要になりました。
このように新設コースである東京クラシッククラブにおいては、日常メンテンナスに加え、多くの改善作業が必要となりますが、これらの対処を行いつつ、最高のコースコンディションを提供するべく努力してまいります。
具体的なベンチマークとして、グリーンスピード平均10.5フィート、FW刈高12mm、を目指し、中長期的にこのベンチマークを維持できるコース環境を創ってまいりますので、メンバー各位におかれましても、引き続きご理解、ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。
以下に、それぞれの具体的な課題と対応方法、概算コストをご説明します。
■グリーン
開場以来、パッティング面の外側にはみ出したベント芝が完全に除去されておらず、本来ならコーライ芝であるべき(床土が土の)部分にベント芝が残っています。これらの中の多くの箇所は、夏になるとベント芝が乾き、ターフが維持できていません。本来ならスプリンクラーヘッドは、ベント芝のカラーから30センチほど外側に位置するはずですが、現在多くのグリーンでベントカラーがスプリンクラーヘッドの周りまで残っている状態です。
また、長期にわたりベント芝がはみだしたままになったことで、本来のベント芝の外周エッジが不明確になり、ベント芝であるべき部分がコーライ芝になったため、グリーンの形状が変わってしまっています。そのため、ティー方向からグリーン面が見えにくくなっていたり、ピンを切れる箇所が狭くなったりしているグリーンもあります。
これらの問題を解消するためには、ベント芝外周のエッジの位置の再確認と、ベント芝、およびコーライ芝の張り替えが必要です。ベント芝の張り替えで重要なことは、張り替え後グリーンと同じ透水性を確保するために、グリーンで使っているものと同じ砂の上に作ったベントターフを使うことです。機械の油漏れなどでパッティング面の芝が枯れた場合など不測の事態に備える意味でも、500平米以上のベント芝のナセリーを持つことは大変重要です。現在3番ホール左側のスペースにベント芝、高麗芝それぞれ500㎡のナセリーを造成しており、この工事代金は約1,200万円を予定しております。
開場後一時期、粒度の小さい砂をグリーンの目砂に使用していたため、グリーンの床に一部細かすぎる砂の層が形成されて、透水性を損なった経緯があります。現在は造成当初と同じ粒度の砂を使用していますが、すでにできた細かい砂の層は、今後、毎年2回程度のコア抜きエアレーションと砂のすり込みを継続することが必要です。
高温多湿の天候により強い抵抗性を持ち、乾燥害、病害にもより強い当コース造成後に実用化された新しいベント芝を現在のグリーンに加えるインターシーディングをすることを勧めます。この作業は通常、春と秋のコア抜きエアレーションをした際に、穴の中にベント芝の種を蒔く方法で行われます。インターシーディングには継続して年間約50万円を要します。
グリーン面の凍結、光合成の阻害による成長不良などの問題を軽減するため、今後も密集した林帯の間伐を進め、日陰を減らすことが必要です。
■ティー
開場から数年経ち、長く伸びた枝でティーショットのショットバラエティーが制限されるようになったホールが見受けられます。これらの樹木は高所伐採の専門業者に依頼して枝を切るか、伐倒する必要があります。
ティー面とその周辺部に排水不良の箇所が見られます。ティー面の排水不良は、より透水性の高い砂に替えて、基盤に暗渠排水を設置することで解消されます。また、長期にわたりティーグラウンドの適切な透水を維持するためには、定期的にバーチカットやコア抜きエアレーションと砂すり込みを行い、過度のサッチ(土中の有機残さ堆積層)を削減することが必要です。特に排水不良箇所のあるティー周辺部で、プレーヤーが歩く箇所は優先的に暗渠排水と集水マスの設置が必要です。
■フェアウェー
開場以来、2年前までサッチ(土中の有機残さ堆積層)除去のためのバーチカットやコア抜きエアレーション等の更新作業は行われてきませんでした。過度なサッチの堆積は、排水不良、根の成長阻害、栄養摂取機能低下、マット化したターフの軸刈りなど、様々な問題の原因となります。定期的に更新作業をすることで、よりしっかりとしたスタンスがとれるターフ面、短い刈高を維持しやすいフェアウェーが出来ます。これらの作業をする機械はまだ不足しているものもあり、用意する必要があります。
排水不良箇所の解消のため、これからも暗渠排水の設置を継続する必要があります。暗渠排水工事は、今後経年劣化に伴う排水不良も起こってきますので、継続して毎年200万円程度の工事代金を要します。
近くの樹木が密集していて芝に十分な太陽光が当たらないことが原因で、冬季に凍結が起き、翌春の芝の成長が阻害されている箇所があります。引き続きの樹木の間伐が必要です。
コース全体の間伐、伐採に継続して年間約100万円を要します。
グリーン手前のアプローチ部分で、散水の水が十分かからない箇所が多くあります。夏までにこれらの箇所のスプリンクラーヘッドを増やす必要があります。本年度約500万円の追加工事を予定しており、その後は既設ヘッドのメンテナンスを行い、機能を維持していきます。
■バンカー
開発当時に選択した砂は、バンカー砂としての機能は非常に優れていましたが、思いのほかコースの風が強く、風に飛ばされてしまうことがわかりました。
砂が風に飛ばされてしまうため、エッジ部分のシートが露出し、シートの破損が起こりました。これらを修正するため、バンカーシートの全面入替を行いました。
バンカー砂そのものも入れ替える必要があり、現在適切な比重、透水性、粒度、を持った別な砂を選定中です。
すべての砂を入れ替える場合は、約3,000万円、年間一定量の補充を行っていく場合は10年計画で約1,500万円を要します。
■トールフェスキューの播種
コースの美観向上とカート道路への土砂流出を防ぐために、これからもトールフェスキューを林帯に播種することを勧めます。もし、ボールが入ることでスロープレーの問題となるようなら、通常のノシバラフに近い刈高に維持することもできます。
大規模なフェスキュー化部分はすでに工事が完了しております。今後はフェスキュー部分のメンテナンスに継続して年間約200万円程度の維持費用が必要です。
■コース管理職員の不足
通常のコースメンテナンスに加え、冒頭で説明した改善業務も必要となります。これらの作業を実施し、最高のコースコンディションを提供するには、コース管理部門の人材確保が急務であり不可欠です。
優秀な人材を一定人数確保するためには、給与単価を見直すことも必要と考えます。また、ニクラウス社のアドバイスの元、スタッフに対し日々のOJTだけではなく、作業方法、施肥計画、薬剤の適切な使用方法等、等の指導を行い、他ゴルフ場では得られないスキル習得の機会を提供することで、職場の魅力を向上し、新規採用の可能性向上と既存スタッフの流出防止に寄与してまいります。
目標とする正社員13名、パート13名、計26名体制を想定したとき年間の人件費総額は約9,000万円となり、前年比2,500万円の増加となります。
編集部追記
次号以降はコースメンテナンスの現状と今後の施策についてご紹介していきます。